日本語の半分はやさしさでできている

原書と比較

 

子どもと暮らすようになってから、生活の一部になった絵本。

 

聞き手がふたりに増えたわが家の最近のブームは、

もともと英語だった絵本を、邦訳版といっしょに読むことです。

 

まずは2冊の本をいっしょに並べて開き、

 

長女が邦訳版を1文読み、続いてわたしが英語で同じ文を読む。

 

ただこれだけのことなのですが、読み進めていくと、
ときどき、「明らかに意訳!」 「表現が違う!」 というところにぶつかります。

 

たとえば、有名な「三びきのヤギのがらがらどん」は「The Three Billy Goats Gruff」。

タイトルを見るとヤギの名前の「がらがらどん」=「Billy Goats Gruff」に見えるのですが、

読み進めると、Billy Goatは雄ヤギのことで、名前自体は「Graff」だけと分かったり。

 
「…そうなの?」 「びっくり!」 「翻訳大変だっただろうなあ〜」 なんて、
一度楽しんだ絵本にも新しい発見がたくさんあってとてもおもしろいのです。
 
 

さて、写真の絵本はマーガレット・ワイズ・プラウンの「おやすみなさい おつきさま」(上)と、



 

むかし教科書に載っていた「おてがみ」で有名なアーノルド・ローベルの「ふたりはともだち」(がまくんとかえるくんのおはなし)のシリーズ本「ふたりはいっしょ」に収録されている「よていひょう」のワンシーン(下)です。



 

「おやすみなさい おつきさま」(上)の方は、最後の一節、

「よていひょう」(下)は、挿絵のリストの最後をご覧ください。
 
「GOOD NIGHT MOON」(上)
Good night noises everywhere.
noises → おとたち
 
「The List」(下)
Play games with Frog Eat Supper Go To Sleep
Go to sleep  → おねんね

 

邦訳版、かわいすぎる!

 

とてもリズミカルなのですが、

邦訳版は、ものに「さん」をつけるなど、言葉を足すことで韻を再現しています。

 

そして、「よていひょう(原題「The List」)」の方ですが、

原書の方はシンプルな表現なのに対し、邦訳ではがまくんの憎めないキャラクターが、言葉の使い方で表されています。

もし、このリストの最後が「ねる」だったら、がまくんへの印象はまるでちがったはず…。

少なくとも、わたしががまくんをかわいいと感じるのは、翻訳あってこそと感じます。

 

と、こんなふうに比べて見て感じるのは、表現の指先にまで込められた翻訳者のやさしさです。

 

もともと日本語の絵本は、空気感や言葉の触感が大切にされているように思います。
特に翻訳絵本は日本語にするとき、物語にあたたかさを感じるような、やさしい言葉を選んでいるのが感じられます。
 
一方、英語の絵本は音としてのここちよさが大切にされ、繰り返しのリズムなど全体のつくりがとても考えられている印象を受けました。
(※どちらがよいというわけではなく、あくまで同じ内容を別の言語で読んだときの個人的な感想です。)

 

人工知能の恩恵で、いまの子が大人になる頃には、意思伝達の道具としての英語学習はいらなくなるかもしれません。

 

けれど異文化を味わい、母語を外側から見るための道具としての「外国語」の役割は、これからも続いていく、そうあってほしいなあと思っています。

 

ちなみに、この遊びで楽しいのは大抵わたしなので、

読み終わったあとは、わたしがお礼(?)に、元の文を、変な翻訳にして読み聞かせタイム。

 

昨日は悪党バージョンで「GOOD NIGHT MOON」を読んだのですが、

例の一節は、「おやすみ!そこかしこからする雑音ども」となりました。

他に誰も見ていない読み聞かせの時間は、母のストレス発散の舞台。
ここでは悪役の力を借りて、悪い日本語も解禁です。

 
 
五月も後半、近所の土手の主役も、ハナダイコンからヒメジョオンにバトンタッチ。
毎度書きたいことはたくさんあるのですが、頭の中を文に置き換えるのに時間がかかり、更新もなかなか進まず…。
これもまたひとつの翻訳作業ですね。
 
言葉の半分を、情報からやさしさに置き換えていく作業を重ねながら、今日は日本語を味わっています。
 
 

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